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ESTP(起業家) の立ち絵
Scenario / Daily / Long

予定が消えた金曜日

ESTP

起業家

飛んだ予定のかわりに、名前も知らない興行へ突撃して、朝には来月のチケットまで握っている人の話

Prologue

金曜の夜、楽しみにしていた予定が直前に消えた。 スマホをテーブルに置いた次の瞬間には、もう、代わりの刺激を探しはじめている。今夜のこのエネルギーを、どこにぶつけるか。ESTP の頭の中は、それだけだ。 今夜の主役は ESTP。飛んだ予定のあと、この人が、あいた夜をどう力ずくで取り返すのか。土曜の朝まで、見ていきましょう。

Phase 01

金曜の夕方。ESTP のあなたは、今夜の予定を指折り数えて楽しみにしていた。 友人と、格闘技の興行を観に行く約束だった。ESTP にとって、こういう夜は、栄養だ。目の前で本物がぶつかり合う音。会場がうねる。選手より先に次の一手を読む、あの感じ。一週間、退屈な仕事に耐えてきたのは、半分、この夜のためだった。 チケットは友人が持っている。時間だけ合わせて、あとは現地で合流すればいい。段取りは、それで十分だ。細かいことは、着いてから決めればなんとかなる。いつも、そうしてきた。 仕事を終えて、ESTP は、会場へ向かおうと駅へ歩き出した。今夜も、いい試合が見られる。そう思うと、自然と足が速くなる。 そのときだった。ポケットのスマホが鳴った。

ESTP の日常 — 物語の幕開けの場面
Phase 02

友人からだ。「わりい! 急な残業で、今夜どうしても抜けられん。チケット、無駄にしてごめん!」 画面を見て、ESTP は——一秒だけ、天をあおいだ。 でも、それだけだった。仕事なら、しかたない。あいつを責めても、試合は見られない。 問題は、そこじゃない。——今夜のこのたぎった気持ちを、どこにぶつけるかだ。 すでに、体は「今夜は動く」モードに入っている。ここで家に帰って一人でおとなしくしているなんて選択肢は、最初から無い。あり余ったものが、行き場をなくして、体の中で暴れている。 ESTP は、その場で立ち止まって、スマホを開いた。指が、勝手に動く。「今夜」「近く」「格闘技」——。 数秒で見つけた。となり町の小さな会場で、名前も知らない団体の興行が、ちょうど今夜、ある。かまわない。試合が見られればいい。 ESTP の口の端が、上がった。 「——よし、そっちだ」

ESTP の日常 — 物語が動き出す場面
Phase 03

改札を駆け抜ける。来た電車に、行き先も確かめず飛び乗った。ドアが閉まってから路線図を見上げて、方向が合っていることを確かめる。逆でも、次で乗り換えればいい。それくらいの心づもりだ。 知らない駅に降りて、人の流れについていく。会場はすぐ分かった。同じ匂いのする客が、みんな同じ方向へ歩いている。——が、当日券の窓口には、すでに「完売」の札が出ていた。 窓口の人に「立ち見でもいい」と言うと、それも無理だと、首を振られる。ここで、あたりを見回した。入り口の脇で、関係者らしいスタッフが一人、無線を片手に、いちばん忙しそうに動いている。あれだ、と決めた。いちばん決裁できそうで、いちばん急いでいる人間。急いでいる相手に、長い話はいらない。 まっすぐ、そこへ行った。「立ち見、一枚。どこでもいい、いちばん端でいい」。スタッフは、面倒そうに「今日はもう締めてて」と言いかける。ESTP は、そこにかぶせた。「チケット代は先に払う。通路はふさがない。終わったら、すぐ流れる」。相手がいちばん動きやすい形を、先にぜんぶ差し出す。 スタッフの手が、一瞬、止まった。「……後ろの立ち見だけだぞ。ついてきて」。読みは、当たった。 そして、試合が始まる。 メインの一戦、判定かと思われた最終ラウンド。劣勢だった赤コーナーが、残り十秒で、左の一発を打ち込んだ。相手の足が、がくんと折れる。効いている。レフェリーが割って入って、そこで試合が止まった。逆転KO。——来た。ESTP は、読みが当たった瞬間、全身に電気が走るのを感じた。会場がまるごと総立ちになる。その真ん中で、拳を突き上げて、腹の底から叫んでいた。 じつは、その左は、来ると分かっていた。二ラウンド目から、赤コーナーが左を隠しているのが、見えていた。となりの立ち見の客に、途中で「最後、たぶん左が来るぞ」と言っておいたら、そのとおりになった。「兄ちゃん、なんで分かったんだよ!」。それから ESTP は、その客と、どこでフェイントに崩れたか、カウンターはどの間合いだったかを、身ぶりつきで語り倒した。読みがぴたりと重なる相手だった。気づけば、連絡先まで交換していた。 試合が終わって客の波に流され、出口へ向かう。その途中、会場の隅にあったパンチングマシンで、つい足が止まった。数字が出るやつだ。一発、殴ってみる。悪くない。——が、その数字に、どうしても納得がいかない。「もう一回」。景品なんて、どうでもいい。ただ、さっきより上の数字を出すまで、その場から動けない。気づけば、百円玉を、何枚も積んでいた。 気づけば、時刻は、とっくに終電を過ぎていた。 ESTP は、ちらっとそれを確かめて——笑った。「まあ、なんとかなるだろ」。 なんとかするあては、別に、なかった。

ESTP の日常 — クライマックスの場面
Phase 04

土曜の昼近く。ESTP は、ソファの上でへんな体勢のまま目を覚ました。 体は、あちこち痛い。立ちっぱなしで叫び続けたせいで、声はガラガラで、ふくらはぎは石みたいに固まっている。財布を開けると、朝あったはずの札が、きれいに消えていた。帰りのタクシー代とあのパンチングマシンで溶けたらしい。 ちょっとは、後悔する。ESTP もいちおう思う。「……ちょっと、やりすぎたか」。 でも、それも一瞬だ。ゆうべのあの逆転KOと総立ちの会場を思い出すと、口元が、勝手にゆるむ。財布は空でも、あの夜は、確かに最高だった。損した気は、まったくしない。 スマホには、ゆうべの立ち見の客から、メッセージが来ていた。「昨日はどうも! あの読み、まじですごかった」。試合の細かい分析まで、長々と送られてきている。会ったばかりなのに。 そしてもうひとつ気づいた。ゆうべ、あの会場で、来月の大会のチケットを一枚買っていたらしい。予約完了のメールが、届いている。しかも、いちばん前のいちばん高い席だ。買ったときの勢いだけは、はっきり覚えている。 ESTP は、それを見て、また笑った。反省は、どうやら、来月まで持ち越しだ。

ESTP の日常 — 結末の場面

Epilogue

ぽっかり空いた時間を、ESTP はじっとして使えない。空いたと分かった次の瞬間には、もう次の刺激を探して、体が動き出している。 後先は、あまり考えない。財布が軽くなろうと、翌朝ボロボロになろうと、その夜がおもしろければ、それでいい。ツケは、あとで払えばいいと思っている。実際、たいていなんとかなってきたのだ。 あなたの周りにも、予定が飛んだ夜に限って、なぜかいちばん派手な一日にしてしまう人——いませんか。 もしかしたらそれは、あなた自身かもしれません。

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