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INFJ(提唱者) の立ち絵
Scenario / Daily / Long

予定が消えた金曜日

INFJ

提唱者

ドタキャンされたのに相手の心配で頭がいっぱいになって、返信を四回書き直したあげく、最初に思いついた一行に戻ってくる人の話

Prologue

金曜の夜、楽しみにしていた予定が直前に消えた。 ふつうなら、まず自分が「ああ、楽しみにしてたのに」とがっかりする。でも INFJ は、ちょっと違う。「行けなくなった」という連絡を見て、いちばん最初に頭をよぎるのは自分のことじゃないんですよ。——「あの人、大丈夫かな。何かあったのかな」。 今夜の主役は INFJ。ドタキャンされた側なのになぜか謝ってきた相手のことで頭をいっぱいにして、たった一通の返信に夜のほとんどを費やしてしまう。その夜を、見ていきましょう。

Phase 01

金曜の夕方。INFJ のあなたは、今夜の予定を何週間も前から静かに楽しみにしていた。 相手は、INFJ が心を許せる数少ない友人だ。INFJ は、大勢でわいわいする飲み会が正直そんなに得意じゃない。当たり障りのないおしゃべりを何時間も続けていると、楽しいはずなのになぜか帰り道にどっと疲れてしまう。 でも、その友人とだけは違う。弱音を吐いても、変な空気にならない。むしろ、お互いの仕事の話のあとに、ぽろっと本音がこぼれる。そういう、ふだんは誰にも言わないことを安心して話せる相手なのだ。 だから INFJ は、お店も騒がしくなく、その友人がゆっくりくつろげそうな落ち着いたところを選んでおいた。自分が楽しむことより先に、相手が気疲れしない夜になるように考えるのがもう癖になっている。 会社を出た INFJ は、いったん家に帰って、ひと息ついた。今夜は、いい夜になる。久しぶりに、ちゃんと話せる。そう思うと、自然と心が温かくなった。 さて、そろそろ出かけよう。そう思って腰を上げた、ちょうどそのときだった。

INFJ の日常 — 物語の幕開けの場面
Phase 02

スマホが鳴った。あの友人からだ。 「ごめん! 急に家のことでバタバタしちゃって、今夜どうしても行けなくなった……ほんとごめんね」 それを読んだ INFJ の反応はちょっと変わっていた。「ああ、楽しみにしてたのに」と落ち込むより、ほんの一瞬だけ先に、こう思ったのだ。 「——え、大丈夫? 何かあったのかな」 自分の残念な気持ちはすっかり後回しだった。いや、残念じゃないわけじゃない。ただ、その残念さをどこに置けばいいのか分からないうちに、心配のほうが先に立ってしまう。家のことでバタバタ、ってなんだろう。誰か体調を崩したのかな。それとも、本当の理由をぼかしているだけで、もっと言いにくい何かがあるのかな。 ともかく、何か返さなきゃ。INFJ はスマホの返信欄を開いた。 ——ところが、ここで指が止まる。なんて返すのがいちばんいいんだろう。軽く返したら冷たいかな。重く返したら、よけいに気をつかわせるかな。 考えているうちに、INFJ はスマホを握ったまま、ソファに座り込んでいた。土曜の朝まで、まるごと夜が空いている。 ふつうなら、「せっかくだし、好きなことでもしよう」となる場面だ。でも、INFJ の頭の中は、もう、そっちには向いていなかった。 向いていたのは——さっきの、たった一通のメッセージのほうだった。

INFJ の日常 — 物語が動き出す場面
Phase 03

INFJ は、もう一度、友人のメッセージを開いた。 「急に家のことでバタバタしちゃって」。 ——ふつうの人なら、文字どおりに受け取って、それで終わる。でも、その短い一文を、何度も何度も読み返していた。 そして、勝手に読み取り始める。文面が、いつもより少しそっけない気がする。語尾の「ごめんね」が、なんだか元気がないように見える。そういえば、この前会ったとき、仕事のことで少し疲れた顔をしていたっけ。もしかして、家のことっていうのは表向きで、本当はもっと、しんどい何かを抱えているんじゃないか。 ほかの人が見たら、ただの「急用の連絡」だ。でも INFJ の頭の中には、暗い部屋でひとり、ため息をついている友人の姿まで、もう浮かびかけていた。INFJ がこんなふうに深読みするのは、頭を整理したいからじゃない。相手が今、そっとしておいてほしいのか、それとも話を聞いてほしいのか。それを読み違えて、傷つけてしまうのが怖いのだ。 気づけば、自分の夜のことなんて、すっかり忘れていた。代わりに始めたのは、友人を気づかう返信づくりだ。 一案目。「大丈夫? 無理しないでね」。——打ってみて、すぐ指が止まる。いや、軽すぎる。これじゃ、本当に心配しているのが伝わらない。 二案目。「最近ちょっと疲れてるみたいだったから、心配で。何かあったらいつでも聞くからね」。——うっ、今度は重い。詮索しているみたいだ。そっとしておいてほしいときに、これは、こわい。 三案目。思いきって明るく。「気にしないで〜! また埋め合わせしよ!」。——いや待って。これだと、私が全然寂しがってないみたいで、逆に冷たく見えないか。 四案目は、もはや本文そのものより、周りのことで悩み始める。文末に笑顔の絵文字をつけるか、本気で五分迷う。つけると軽すぎる気がするし、何もないと、怒っているように見えるかもしれない。読点をひとつ増やしたり、減らしたり。 そのうち、悩みは送る「時間」にまで広がっていく。今は夜の九時。この時間に返信が来たら、相手は「気をつかわせたかな」と思わないだろうか。それに、今これを送ったら、相手に既読だけつけさせて、こっちへの返事をまた考えさせてしまうかもしれない。いっそ、相手が落ち着いた明日の昼ごろに送るほうが——いや、それだと遅すぎて、心配していないみたいに見えるかも。 ——金曜の夜。誰にも邪魔されない、自分のためのまるごと一晩。それを使って INFJ がやっているのは、まだ送ってもいない返信の、文字数と送信時刻の調整だった。 そして、いちばんおかしいのは、ここだ。これだけ時間をかけて、こんなに相手を思って練りに練った四つの案を、INFJ は、ひとつも送れない。 送信ボタンの上で、指がずっと止まったままだ。気づけば、時計は十一時を回っていた。

INFJ の日常 — クライマックスの場面
Phase 04

結局その夜、INFJ がようやく送れたのは、たった一行だった。 「うん、気にしないで。また今度ね」。 日付が変わる少し前。あれだけ悩んで、四案も練って、最後に送ったのは、最初に思いついた当たり障りのない一言。書いては消した残りの案は、誰の目にも触れないまま、消えていった。 それでも INFJ は、なんだか疲れて、でも少しだけ満たされた気持ちで、その夜を終えた。相手のことを、めいっぱい考えた。どっと疲れたけれど、その時間が、自分にとって無駄だったとは思わなかったから。 そして、土曜の朝。 スマホが鳴った。あの友人からだ。INFJ は、どきりとして画面を見た。ゆうべ、あんなに心配したのだ。もしかして、何か——。 「おはよ! 昨日はほんとごめんね〜。妹が急に泊まりに来ることになっちゃってさ。来週こそ埋め合わせさせて! 楽しみにしてる😊」 ……元気だった。びっくりするくらい、いつもどおり、元気だった。 INFJ は、しばらく画面を見つめて、それから、ふっと力が抜けて笑った。妹さんが、泊まりに。たったそれだけ。ゆうべの切ない物語は、全部、自分の頭の中だけで作られたものだった。 「妹さんの泊まりで、私、一晩ぶんの心配ドラマを完成させてたのか……。さすがに、自分でもちょっと怖いな」。 ——なんだ。元気そうで、よかった。

INFJ の日常 — 結末の場面

Epilogue

ぽっかり空いた自分の夜を、INFJ は「誰かを気づかう夜」にしてしまう。自分をいたわるはずだった時間が、いつのまにか、まるごと相手のことで埋まっている。 しかもその気づかいは、たいてい相手に届かないまま、本人の頭の中だけでふくらんでいく。空回りといえば、立派な空回りだ。 あなたの周りにも、自分のことより先に、誰かの「大丈夫かな」を背負ってしまう人——いませんか。 もしかしたらそれは、あなた自身かもしれません。

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