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INFP(仲介者) の立ち絵
Scenario / Daily / Long

予定が消えた金曜日

INFP

仲介者

ドタキャンされた夜を、勝手に人生の第何章かにして、明け方に自分の書いた文章で照れている人の話

Prologue

金曜の夜、楽しみにしていた予定が直前に消えた。 ふつうなら、がっかりして、その寂しさを早く忘れようとする。でも INFP はちょっと違う。寂しさを忘れるどころか、部屋の電気をすっと落として、むしろ泣く準備を整えはじめるんですよ。消えた予定がくれたこの切なさは、雑に捨てるにはちょっと惜しい。——本気で、そう思っている。 今夜の主役は INFP。誰にも邪魔されない一晩を、この人がどう変えてしまうのか、見ていきましょう。

Phase 01

金曜の夕方。INFP のあなたは、今夜のライブを何ヶ月も前から待ちわびていた。 お目当ては、十代のころからずっと聴いてきたアーティストだ。落ち込んだ夜も、眠れない夜も、その人の歌にどれだけ救われてきたかわからない。歌詞のたった一行が、自分でもうまく言葉にできなかった気持ちを代わりに言い当ててくれる。INFP にとって音楽は、ただのBGMじゃない。心のいちばん柔らかいところにまっすぐ触れてくるものだった。 そのライブに今夜やっと行ける。チケットは一緒に行く友人が半年も前に取ってくれていた。 だから INFP の準備は、ちょっと変わっている。着ていく服より先に、まず今夜のセットリストを勝手に予想した。どの曲でたぶん泣くか、もう心の中で決めてある。なんなら、泣く曲は二曲、予約済みだ。会場に向かう電車で聴く曲も、順番までこだわって選んだ。心の準備というやつを誰よりも入念にすませていた。 ——今夜あの歌を生で聴いたら、わたしはきっと、また少しだけ変われる気がする。 そんなふうに、本気で思っていた。

INFP の日常 — 物語の幕開けの場面
Phase 02

スマホが鳴ったのは、もう出かけようと立ち上がったときだった。 「ごめん! 朝から熱っぽくて、今夜のライブ、どうしても行けそうにない……ほんとにごめん」 画面を見た INFP は——すぐには、何も言えなかった。 落ち込むというのとも少し違う。半年待った夜。あの歌を生で聴けるはずだった夜。それが指のあいだから、すっと抜けていく。そういう心もとなさだった。 「大丈夫? ぜんぜん気にしないで。今夜はゆっくり休んでね」 そう返したのは、もちろん本心だ。友人を責める気なんて、これっぽっちもない。熱が出たのは、誰のせいでもない。 チケットは二枚ある。一人でも、行こうと思えば行けた。でも INFP は、なぜか動けなかった。あの場所にぽつんと立って、となりの空席を感じながら聴くくらいなら——今夜は、行かない。そう決めた。 ライブなら、また次がある。問題は、ぽっかり空いてしまった今夜のこの気持ちのほうだった。 ふつうの人なら、さっと切り替えて、テレビでも観て寂しさを紛らわせる。でも INFP には、それができなかった。この切なさをうやむやに流してしまったら、今夜を本気で楽しみにしていた自分まで、雑に扱うことになる気がして。 ——この気持ちは、ちゃんと味わっておかなきゃ。 INFP は、そう思ってしまう人なのだ。

INFP の日常 — 物語が動き出す場面
Phase 03

INFP は部屋の電気を少し落として、ソファに深く沈み込んだ。そして、今夜聴くはずだったアーティストの曲を、いちばんいい音で流しはじめた。 行けなかったライブの曲を、家で一人きりで聴く。ふつうなら、よけいに切なくなるだけだ。でも INFP にとっては、ここからが本番だった。 スピーカーから、あの歌声が流れ出す。一曲目で、もう胸がいっぱいになった。暗い部屋で、歌詞をじっと目で追う。その一行一行が、今夜の自分の気持ちにおそろしいくらいぴたりとはまる。「行けなかった」という今夜の出来事が、その歌の意味を、何倍も深くしていく。 気づけば、頬を涙がつたっていた。悲しいだけの涙とは、なんだか違う。泣いているのに、どこか気持ちがいい。その涙をぬぐおうともしない。むしろ「ああ、来てる、来てる」と、こみ上げてくる感情の波を、味わっている。 そして、ここからが INFP の本領だ。 ひとつの曲が、次々と別のものを呼んでくる。この歌の世界観、あの映画に似てるな。そういえば、この曲は中学の帰り道、イヤホンで何度も聴いたっけ。頭の中で、音楽と映画と遠い日の自分の記憶までが一本の線でつながっていく。 そのうち、胸の中でふくらんだ気持ちが、どうしても言葉になりたがってくる。INFP はノートを開いて、印象に残った歌詞を一行、書き写した。すると、もう止まらない。その下に、今夜の自分の気持ちを、詩のような日記のような文章で、夢中で綴っていく。ひとしきり書いて、ふと、ページのいちばん上に、こう書きつけた。「第三章 行けなかったライブと、わたしだけが聴いた歌」。……我ながら、なかなかの章タイトルだ。本人は大まじめである。 書きあがった文章を思わずSNSに投稿しようとして、指が一瞬だけ動く。——でも、やめた。これは、誰かに「いいね」をもらうためのものじゃない。今夜の自分だけの、大切なものだ。そっと下書きフォルダにしまう。INFP にとってそこは、人に見せない宝物をしまっておく、小さな箱のような場所だった。 時計を見ると、いつのまにか深夜をまわっている。それでも INFP の頭の中は、さえざえと冴えていた。今夜のドタキャンは、もう、ただの「予定キャンセル」じゃない。「あの夜、一人で過ごしたからこそ、わたしはあの曲の本当の意味に出会えた」。そういう、自分だけの物語の大切な一章に変わっていた。

INFP の日常 — クライマックスの場面
Phase 04

INFP がようやくペンを置いたとき、スマホの時計は午前五時を回っていた。外では、始発電車の音が遠くに聞こえはじめている。 書きあがったノートを、朝のしらふの頭で読み返してみる。すると——これが、なかなか、恥ずかしい。「第三章」というタイトルに始まって、「運命が、今夜だけ席を空けてくれた」みたいな一文まで、堂々と並んでいる。一人で顔を赤らめて、ぱたんとノートを閉じた。 それでも、消す気にはならなかった。あれはたしかに、ゆうべの自分の、本当の気持ちだったから。 そのとき、スマホが鳴った。ゆうべの友人からだ。「おはよう、昨日は本当にごめんね。熱、だいぶ下がったよ。また絶対リベンジしようね!」。 INFP は返信を打ちはじめた。「気にしないで。実はゆうべ一人で曲を聴いてたら、いろんなことを考えて——」。三行ほど打って、指が止まる。いや。さすがにこの長さは、たぶん重い。INFP はすべて消して、「うん! 絶対行こうね」とだけ送った。 そして、ひとつ気づいて、小さく笑う。結局わたしは、ライブに行けなかったことすら、まるごと自分の作品の素材にしていたわけだ。 外には一歩も出ていない。それでもノートの中では、ライブ会場よりずっと遠いところまで行っていた。INFP にとっては、それでじゅうぶんすぎる夜だった。

INFP の日常 — 結末の場面

Epilogue

ぽっかり空いた夜を、INFP は「心の旅をする夜」にしてしまう。寂しさも、切なさも、ぜんぶ大切にすくい上げて、自分だけの物語に変えていく。 外から見れば、ただ一人で音楽を聴いて、ノートに長い文章を書いていただけ。何かが生まれたわけでも、誰かの役に立ったわけでもない。それでも本人の中では、ちゃんと一晩ぶんの物語が増えている。 あなたの周りにも、一人の時間に、自分の気持ちをとことん味わい尽くす人——いませんか。 もしかしたらそれは、あなた自身かもしれません。

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