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INTP(論理学者) の立ち絵
Scenario / Daily / Long

予定が消えた金曜日

INTP

論理学者

ドタキャンされた夜に、世界でいちばんどうでもいい謎を本気で追いかけ、発端だけきれいに忘れて朝を迎える人の話

Prologue

金曜の夜、予定が直前に消えた。 ふつうなら、がっかりする場面だ。でも、INTP はちょっと違う。スマホの画面を見て、心の中でまず小さくこう言う。——「よっしゃ」。 口では「残念だな」と言う。でも本音は、隠しきれていない。今夜まるごと、誰にも会わず、誰にも気をつかわず、自分の頭の中だけで遊んでいい。INTP にとってこれは、ちょっとしたごほうびなんですよ。 今夜の主役は INTP。空いた一晩で、この人が世界のどんな謎を追いかけ、朝までに何を「理解」してしまうのか。見ていきましょう。

Phase 01

金曜の夕方。INTP のあなたは、今夜の予定を正直そこまで楽しみにしていなかった。 予定は、大学時代の友人たちの集まりだ。みんないい連中だし、嫌いなわけじゃない。ただ INTP にとって、大人数のおしゃべりはちょっとした仕事みたいなものだ。今どんな話が流行っているか、誰の近況にどう相づちを打つか。気をつかうことが多くて、終わったあとはなぜかぐったり疲れている。 それでも「半年に一回くらいは、顔を出しておくか」と、一応カレンダーには入れてあった。義理というほどでもないけれど、まあ、そういうものだ。 ところがおかしなことに、準備のほうには妙に身が入る。INTP が出かける前にいちばん真剣に悩んだのは、着ていく服でも、お店の場所でもない。——移動中に読む本を、どれにするか、だ。 本棚の前に三十分しゃがみこみ、結局むずかしめの新書を一冊えらんだ。早い話、今夜の飲み会そのものより、電車の二十分のほうを楽しみにしている。本人はそのことにまったく気づいていない。 さて、そろそろ行くか。INTP が腰を上げかけた、ちょうどそのときだった。

INTP の日常 — 物語の幕開けの場面
Phase 02

スマホが鳴った。グループのメッセージだ。 「ごめん! お店の予約、手違いで取れてなかったみたいで……今夜はいったん中止にしよう。また仕切り直すね!」 画面を読んだ瞬間、INTP の口から本音がぽろっとこぼれ落ちた。 「よっしゃ」 ——言ってしまってから、はっとする。いや、これはよくない。友達が困っているのに、よろこぶのは人としてどうなんだ。INTP はあわてて、誰も見ていない部屋で、わざわざ口に出して言い直した。 「……いや、残念。残念だな。うん」 そう取り繕ってはみたものの、気持ちはもう完全にうきうきしている。ごまかしようがない。 INTP はスマホに「了解、また今度ね」とだけ返して、ぽいとソファに放った。相手を責める気はみじんもない。予約の手違いなんて、誰にでもある。怒っても店は空かない。それで、おしまい。 そして、ここからが本番だ。 ——今夜、まるごと空いた。誰にも会わなくていい。何を話すか考えなくていい。明日も、休みだ。 ちょうど、学校が急に休みになった日の、あの感じだ。 「さて。せっかくだし、何しようかな」 ——このときの INTP は、まだ本気で、有意義に夜を使うつもりでいた。まあ、この「有意義に」は、このあとほとんど守られないのですが。

INTP の日常 — 物語が動き出す場面
Phase 03

ことの始まりは、本当にささいな疑問だった。 ソファに寝転がりながら、INTP はさっきのメッセージを思い返していた。お店の予約が取れていなかったらしい。——そういえば、なんで金曜の夜って、どこもこんなに混むんだろう。 ふつうの人なら、「そりゃ週末だからでしょ」で終わる話だ。でも INTP の頭は、そこで止まらない。「週末だから」では、何ひとつ説明したことにならない。だいたい、そもそも「週末」って、金曜の夜からなのか、土曜からなのか。どこからどこまでを指す言葉なんだ。 ——いや、そこはどうでもいいでしょう。そう言いたくなりますよね。でも、INTP にとってはどうでもよくないんです。 気になったら、もう止まらない。起き上がってパソコンを開き、検索バーに「華金 由来」と打ち込んだ。そこから先は坂道を転がるようだった。 華金の語源を読むと、バブル経済の話が出てくる。バブル経済の話を読むと、週休二日制がいつ広まったのかが気になる。週休二日を調べると、今度は「そもそも一週間が七日なのは、なぜなのか」という疑問にぶつかる。七曜の起源。古代バビロニアの天文学。——気づけば INTP は、金曜の夜に、紀元前のメソポタミアにいた。飲み会の話は、もうどこにもない。 横に並んだタブはどんどん増えていく。文字はもう豆粒みたいに小さい。途中で英語の論文まで一本ダウンロードして、「あとで読む」フォルダに入れた。たぶん、読まない。本人もうすうす分かっている。それでも入れてしまう。 そして、ここで一つ、見事に脱線する。ふと、真顔でこう考え始めた。 「……そもそも、今日のドタキャン。あれって法的には、どうなんだ? 約束って、契約なのか?」 そこで民法に行くの、と思いますよね。行くんです。新しいタブに「口約束 契約 成立 民法」。ドタキャンに損害賠償を請求する人なんて、ほぼいない。それでも調べる。一円の得にもならないのに、ただ知りたいから調べる。 しばらくして、さすがに疲れたのか、何ヶ月も積んだままのゲームを「ちょっと息抜きに」起動した。——が、ゲームの本編はほとんど進まなかった。代わりに気になり出したのは、そのゲームの中で使われている暦と、架空の国の通貨のしくみだ。「この世界、一年が何日なんだ?」。そしてまた、調べ物に戻っていく。ゲームですら、新しい謎への入り口でしかない。 机の上には、開きっぱなしの新書。読みかけのまま伏せられた論文。スマホのメモには、自分でも意味のわからない走り書き——「華金=労働制度の副産物?」。 頭の中はずっと、こうだ。「あ——楽しい。これだ。この感じ」。 時計は、いつのまにか午前三時を回っていた。

INTP の日常 — クライマックスの場面
Phase 04

ふと気づくと、パソコンの右下の時計が、いつのまにか午前六時を指していた。画面には、開いたままのタブが、数えきれないほど横に並んでいる。検索の履歴は、自分でもどうやってたどり着いたのか分からない言葉で、埋めつくされていた。 INTP はようやく、ひと晩じゅう机に向かっていたことに気づいた。眠くないと言えば嘘になる。でも、頭のほうは、まだ妙にすっきりしている。 今夜の成果はというと——華金の語源、週休二日制の歴史、一週間が七日である理由、口約束の法的な扱い、それから架空の国の暦。役に立つものは、ひとつもない。 それでも、INTP は満ち足りていた。誰にも気をつかわず、誰にも急かされず、気になったことを、気になるままに調べた。これ以上の自由が、どこにあるだろう。 そのとき、スマホが鳴った。ゆうべの友人からだ。「昨日はごめん! 来週あらためてどう?」。 INTP は返信を打ち始めた。「了解。ちなみに、ゆうべ調べたんだけど、口約束も法的には契約が成立する場合があるらしくて——」。 ……三行ほど打ったところで、指が止まる。いや。これは、たぶん、引かれる。経験上、知っている。INTP はすべて消して、「了解、楽しみにしてる」とだけ送った。 そして、ひとつおかしなことに気づく。肝心の「飲み会がなぜ中止になったか」は、もうきれいに忘れているのに、七曜の起源だけは、いまだにすらすら説明できるのだ。 うん。最高の夜だった。それだけは、たしかだ。

INTP の日常 — 結末の場面

Epilogue

空いた時間を、「休む」でも「埋める」でもなく、「なんで?」で使い切ってしまう。INTP の夜は、そういう夜だ。 何かを片づけたわけでも、誰かの役に立ったわけでもない。ただ、自分の頭の中だけで、思う存分に遊んだ。本人にとっては、それが世界でいちばんの娯楽なんですよ。役に立つかどうかは、はじめから問題じゃない。 あなたの周りにも、暇さえあれば、どうでもいい謎をうれしそうに調べている人、いませんか。 もしかしたらそれは、あなた自身かもしれません。

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