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ISTJ(検査官) の立ち絵
Scenario / Daily / Long

予定が消えた金曜日

ISTJ

検査官

飛んだ予定の穴を、ためこんだ家事と「いつもの夜」でぴったり埋め直して、ひとり静かに勝ち誇る人の話

Prologue

金曜の夜、楽しみにしていた予定が直前に消えた。 ふつうなら、ぽっかり空いた数時間を持て余す。でも ISTJ はその瞬間、なぜか少しだけ機嫌が上向く。頭の中で、ずっと後回しにしていた家のあれこれが、いっせいに順番待ちを始めるからだ。 今夜の主役は ISTJ。飛んだ予定のあとに、この人がいったい何を始めて、土曜の朝にはどんな顔をしているのか。一晩、つきあっていきましょう。

Phase 01

金曜の夕方。ISTJ のあなたは、今夜の集まりをひと月前から楽しみにしていた。 集まりといっても、派手なものじゃない。月に一度、いつもの顔ぶれで、いつもの店の、いつもの席につく。頼むものも、話すこともだいたい同じだ。——でも ISTJ にとっては、その「変わらなさ」こそがごちそうだ。 何年も続いてきた集まりだ。引っ越しや転職でメンバーが減っても、この日だけはなんとなく続いている。毎月この日にこれがある、とわかっていること。それが ISTJ には、何より落ち着く。知らない人も、思いがけない展開も、別にいらない。 準備は、先月のうちから進んでいる。店の予約は前回の帰りぎわにもう取った。今日が定休日でないことも、ちゃんと確かめてある。前回の割り勘の金額はスマホのメモに残してあるから、今日はそれを見越して、お札を多めにくずしておいた。前に貸した本を返してもらう約束も、忘れないように書いてある。 ここまで段取りをそろえておけば、当日は安心して楽しめる。ISTJ にとっては、この準備も楽しみの一部なのだ。 一週間、まじめに働いた。その最後に、この夜がある。会社を定時で出た ISTJ は、家で着替えながら、よし、と小さくうなずいた。

ISTJ の日常 — 物語の幕開けの場面
Phase 02

スマホが鳴ったのは、ちょうど家を出ようとしたときだった。 幹事役の友人からだ。「ごめん! 店が今日に限って、急に臨時休業だって……。また日を改めてでいい?」 画面を見て、ISTJ は——取り乱さなかった。落ち込みもしない。 「了解。日にちが決まったら、また教えて」 それだけ返して、スマホを置く。店を責める気はない。臨時休業は誰のせいでもない。定休日は確かめていたけれど、臨時休業まではさすがに読めなかった。それだけのことだ。怒っても、店は開かない。 ただ——夜が、ぽっかり空いた。今夜のために、わざわざこの時間をまるごと空けてあったのだ。 空いた時間を急いで別の予定で埋める気には、なれない。今から別の予定を入れれば、店を調べ直し、行き方を調べ直し、会計もまた一からだ。予定外の段取りが増えるだけだ。 代わりに、頭にすっと浮かんだのは、もっと地味なことだった。 ——そうか。この時間、まるごと「いつもの金曜」に戻せるじゃないか。 本来この夜は、集まりに行くために前半をぜんぶ空けてあった。その時間が、そっくり手元に返ってきた。つまり、いつもは夜遅くにあわてて片づける家のあれこれを、今夜は頭から、ゆっくり、順番にやれる。 そう気づいたとたん、しぼみかけた気持ちが、すっと戻った。 上着を脱いで、ISTJ はまず、やかんを火にかけた。いつもの夜が始まる音だ。

ISTJ の日常 — 物語が動き出す場面
Phase 03

まず、テレビをつける。今週ぶんの連続ドラマが三本、たまっている。再生の順番はもう決まっていた——録った日が古いほうからだ。途中で入れ替えたりは、しない。 流しっぱなしにしたまま、ISTJ はテーブルに財布を出した。一週間ぶんのレシートをぜんぶ取り出す。コンビニ、スーパー、電車賃。日付の順に並べ直して、一件ずつ家計簿に打ち込んでいく。先週の自分が何にいくら使ったか。それが数字になって、画面にきれいに並んでいく。 最後に、財布の中身と、帳簿の数字を突き合わせた。 ——ぴたり、と合った。 一円のずれもない。この一週間の帳尻が、きちんと合った。ISTJ はふっと肩の力を抜いた。ひとつ、片づいた。 次は、洗濯物。乾いたまま畳まずに置いていたぶんを、かごから出す。Tシャツの畳み方は決まっている。同じ向き、同じ大きさ。畳んだそばから引き出しの中へ、色の濃い順に重ねていく。誰も開けない引き出しの中が、一段また一段と整っていく。これで、ふたつ。 ドラマが二本目に入ったころ、時計が二十一時を指した。お茶の時間だ。決まったマグカップに、決まった茶葉を、決まった濃さで。ひと口飲んで、ふう、と息をつく。今日も、同じ味がした。そして、みっつ。 ここで、ふと、いやな考えがよぎる。「この集まり、誰かが遠くに引っ越したら、そのうち消えてなくなるんじゃないか」。最悪のほうへ、想像がのびかける。——が、ISTJ はそこで小さく首を振った。「来月も、ある」。それだけ考えて、マグカップに手を戻した。 気づけば、飛んだはずの夜が、一つ残らず埋まっていた。録画は古い順に消え、家計簿は合い、引き出しは整い、お茶は同じ味がした。誰にも見えない場所が、ぜんぶ、いつもの形に戻っている。 もう一度、財布と帳簿を見た。やっぱり、合っている。 この夜、ISTJ は一度も外に出ていない。誰とも話していない。なのに本人の中では、今週いちばん、いい夜になっていた。

ISTJ の日常 — クライマックスの場面
Phase 04

土曜の朝。ISTJ はいつもの時間に、ぱっちりと目を覚ました。 ゆうべは決まった時間に布団へ入った。お茶を飲んで、ドラマを見終えて、家計簿を閉じて、歯をみがいて、消灯。順番どおりだ。だから今朝も、いつもどおり、すっきりした頭で起きられた。 ふとんの中で、ゆうべを思い返す。そして、おかしなことに気づいた。 ——あんなに楽しみにしていた集まりが流れたのに、自分はちっとも、がっかりしていない。 それどころか、いつもは夜中にあわててやる家のことを、頭から順に、ゆっくり片づけられた。レシートも合った。引き出しも整った。むしろ、得をした気さえする。 頭の中で、ISTJ はゆうべを短くまとめた。「予定の変更、あり。代わりの過ごし方、問題なし。むしろ良好」。 そこまで考えて、ちょっとおかしくなった。楽しみにしていた集まりより、ただの家事の夜のほうが、しっくり来てしまった。これでいいのか、と思わなくもない。 でも、いいのだ。来月になれば、また同じ顔ぶれで、同じ席につく。それまでの一か月も、たぶん、この調子で問題なく回っていく。 幹事には、もう短く返してある。「振替、いつでも合わせます」。 変わらない毎日を、変わらず、きちんと回せた。ISTJ の土曜は、そこからまた、いつもどおりに始まっていく。

ISTJ の日常 — 結末の場面

Epilogue

ぽっかり空いた時間を、ISTJ は特別な予定では埋めない。ためこんだ家事と「いつもの夜」で、すきまなく埋め直すだけだ。 外から見れば、ただの地味な金曜の夜。録画を消して、家計簿をつけて、洗濯物を畳んで、いつものお茶を飲んだ。それで一週間の帳尻は、ぴたりと合った。本人にとっては、それで十分なのだ。 あなたの周りにも、予定が飛んだ夜に限って、なぜかいつもより機嫌よく、家のことをしている人——いませんか。 もしかしたらそれは、あなた自身かもしれません。

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