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ISTP(巨匠) の立ち絵
Scenario / Daily / Long

予定が消えた金曜日

ISTP

巨匠

誰にも邪魔されない夜を、前から気になっていた「あの音」の正体探しにまるごと使い切る人の話

Prologue

金曜の夜、楽しみにしていた予定が直前に消えた。 スマホをちらっと見て、ISTP はそれだけだった。がっかりも、腹立ちもしない。ただ、心のどこかが少し軽くなる。——邪魔が入らない。あれをやれる。 今夜の主役は ISTP。誰にも見せない一晩の過ごし方を見ていきましょう。

Phase 01

金曜の夕方。ISTP のあなたは、今夜の約束をまあ楽しみにしていた。 飲み会じゃない。友人が「自転車の調子が悪いから、ちょっと見てほしい」と言うので、夜、その手伝いに行くことになっていた。手を動かすのは性に合っている。 ただ、少しだけ気は重かった。人のとなりで作業をすると、いちいち「どう?」「それ何やってるの?」と聞かれる。そのたびに手を止めるのが、どうにも苦手だ。黙って、自分のペースでいじりたい。 道具だけは、きっちり用意してあった。使い慣れた工具を、いつもの順番でケースに並べる。それを見ていると、少しずつ、気分が乗ってくる。まあ行くか、と腰を上げかけた。

ISTP の日常 — 物語の幕開けの場面
Phase 02

そのとき、スマホが鳴った。その友人からだ。 「ごめん! 今日やっぱり用事ができちゃって……また今度でいい?」 ISTP は短く返した。 「了解。またいつでも」 それだけだ。がっかりも、腹立ちもしない。用事があるなら、しかたない。日を改めればいい。スマホを置いた。 ——手元に夜がまるごと残った。工具はもう並べてある。手を動かす気もできあがっている。 並べた工具をながめているうちに、ふと、思い出した。 自分のバイク。先月から低速で妙な音がしている。走るぶんには問題ない。でも、あの音が、ずっと引っかかっていた。時間がなくて、後回しにしていたやつだ。 口の端が、ほんの少し上がった。 「……ちょうどいい」 今夜は友人の自転車の代わりに、自分のバイクだ。しかも、横で「どう?」と聞いてくる相手もいない。

ISTP の日常 — 物語が動き出す場面
Phase 03

ガレージに下りて明かりをつける。バイクの前にしゃがみこんで、しばらく車体をながめた。どこから手をつけるか。頭の中で、順番を組む。 エンジンをかけて低速で回してみる。……鳴った。キュル、ともカチ、ともつかない、小さな音。走っているときは気にならないが、静かな夜に聞くと、はっきり分かる。もう一度回す。やっぱり同じところで鳴る。低速のときだけだ。回転を上げると、音はすっと消える。 音は、下のほうから来ている。手のひらをそっと当てて、振動を探す。ここか。いや、もう少し奥だ。ISTP は当たりをつけて、工具に手を伸ばした。 ここから先は、言葉がいらない。 カバーを外す。見もせずに、手が工具を選ぶ。いつもの位置にいつものレンチ。ボルトを一本ずつ、指の感触でゆるめていく。金属の冷たさ。工具に伝わるかたい手ごたえ。ひとつ外すたびに、部品を手のひらにのせて光にかざす。まわりの音は、いつのまにか、頭の中から消えている。 最初に目をつけたのは、いちばん怪しそうな部品だった。外して、指でなぞって、点検する——問題ない。きれいなものだ。見込み違い。ここで舌打ちのひとつも出そうなものだが、ISTP は、顔色ひとつ変えない。むしろ、目が少しだけ、真剣になる。可能性が、ひとつ消えた。それも、前進だ。 もう一度、順番に切り分けていく。ここのボルトはしっかり締まっている。ここじゃない。この継ぎ目もがたつきはない。ここでもない。ひとつずつ指で触れて、たしかめて、消していく。——あった。 奥のほうの小さなボルト。指でつまむと、わずかにぐらつく。——ここか。ためしに、その部分を手で押さえたまま、もう一度エンジンをかけてみた。低速で回す。……音がしない。押さえた手を離すと、また鳴りはじめた。間違いない。走るたびに、このゆるみが震えて、低速のときだけあの音になっていた。理由まで頭の中ですっとつながる。 締める。感触をたしかめる。念のため、もう一本、増し締めしておく。 ——ふと、手が止まった。 これを直したと言ったら、さっきの友人は、驚くだろうか。……浮かんだ考えは、それきりだった。ISTP は、また手を戻す。 最後にもう一度、エンジンをかけた。低速でそっと回す。 音が、消えていた。 しばらく黙って、その静かな回転を聞いていた。それから、ひとりで口の端だけで笑った。 「……よし」

ISTP の日常 — クライマックスの場面
Phase 04

土曜の朝。ISTP は、いつもより少し遅く起きた。 顔を洗って、ガレージをのぞく。ゆうべ直したバイクに、もう一度、軽くエンジンをかけてみた。低速で、そっと回す。音は、やっぱり消えている。念のため、少し回転を上げて、また下げてみる。どこにも、あの音はない。それだけ確かめて、うなずいた。 工具は、ゆうべのうちにいつもの場所へ、いつもの順番でしまってある。ガレージは何ごともなかったように片づいていた。 スマホに、友人からのメッセージが来ていた。「昨日は急にごめんな! また埋め合わせするから」。 ISTP は短く返した。「気にすんな。こっちも、やることできたし」。 嘘じゃない。ずっと後回しにしていたやつが、片づいた。むしろ、都合がよかったくらいだ。——もっとも、それは、わざわざ言わない。 ゆうべのことを、誰かに話すつもりも、SNS にあげるつもりもない。直った音を知っているのは、自分ひとりでちょうどいい。 やることが、ひとつ、きれいに片づいた。誰にも邪魔されず、自分のペースで。ISTP の土曜は、そこから、いつもどおりに始まっていく。

ISTP の日常 — 結末の場面

Epilogue

ぽっかり空いた時間を、ISTP は、にぎやかには使わない。誰も呼ばず、何も説明せず、ただ黙って、気になっていたものに手を伸ばす。 そうして朝になるころには、何かひとつが、たいてい直っている。本人は、それを自慢するでもなく、あたりまえの顔をしている。頭のなかの答えと、目の前のものが、ぴたりと合う。口に出す言葉はせいぜい一つ。「よし」。それで、おしまいだ。 あなたの周りにも、休みの日に限って、なぜか黙々と何かを分解したり直したりしている人——いませんか。 もしかしたらそれは、あなた自身かもしれません。

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