22 歳の春。同期 800 人が並ぶ入社式。 役員の長い話が始まって十分も経つと、ESTP のあなたは、もうほとんど聞いていなかった。机の下でスマホを開いて、配属先の評判を調べ、誰と組めば勝てるかを先に見ていた。 配属は、営業部。これが、ESTP には、ぴったりだった。 研修は、退屈だった。トークの台本を丸暗記して、先輩相手にロールプレイ。三日目には、もう飽きていた。 最終日、講師役の先輩が「では本番の練習」と言った瞬間、ESTP は台本を閉じた。そして、その先輩自身に架空の商品を売りはじめた。「先輩、さっきから時計チラチラ見てますよね。会議近いでしょ。じゃあ要点だけ。これ、入れると先輩の残業が月十時間減ります」。先輩は、つい「お、いいな」と言ってしまって、研修室がどっと沸いた。 現場は、もっと水に合った。 先輩について初めて客先に出た日、ESTP は台本を一行も使わなかった。帰り道、先輩が「お前、よく刺さったな」と聞くと、こう答えた。 「だって部長、最初の名刺交換で、こっちの資料はそっちのけで、ずっとスマホ気にしてたじゃないですか。あれ、忙しい合図。長く話したら負け。だから三分で、数字だけ置いてきた」。 見て、読んで、詰める。契約は、先輩より先に ESTP が取ってきた。 「準備とか台本とか、いります? 会って顔見れば、だいたい分かるじゃないですか」。 25 歳。営業成績は、同期でトップ争い。 「次の大型案件のリーダー、やってみないか」。打診が来た瞬間、ESTP はもう椅子から立っていた。「やります。でかいほど、燃えるんで」。退屈だけが、この人の唯一の敵だった。




