22 歳の春。同期 800 人が並ぶ入社式。 壇上では偉い人が「成長」「市場価値」と、何度も言っている。 まわりが熱心にメモを取るなか、INFP のあなたは、ひとり別のことが気になっていた。 (市場価値って言うけど……その値段、いったい誰が決めたんだろう) 配属はシステム開発部。いちばんぴんと来ない場所だった。 コードの世界ははっきりしていた。動くか、動かないか。それだけ。 INFP は、それでも、変数の名前ひとつ、コメントの一行に、ちょっとした意味や自分なりのこだわりを込めたかった。 ある日、先輩にやんわり言われた。「そこ、動けばいいから、あんまり時間かけないで」。 INFP は「はい」と答えながら心の中で小さくつぶやいた。 (動けばいい、か。……それ、人生でも言われたら、けっこうきついな) 納期より先に「これでいいのか」が立ってしまう。 締め切り前の夜、もうほとんど仕上がっているのに、たった一行の言い回しが気に入らなくて何度も書き直す。 効率だけで言えば最悪だった。でも、ここだけは、INFP にはどうしても譲れなかった。 25 歳。INFP は、会社を辞めた。 ここにいたら、自分の中のいちばん大事な部分がすり減って消えてしまう気がした。 一線を曲げてまで、この椅子に座り続ける理由は最後まで見つからなかった。 辞めると言ったとき、同期には「もったいない」と言われた。 INFP は、少しももったいないとは思わなかった。 書く仕事で生きていく。そう、決めた。




